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居酒屋の王道

プログラムに落とし込んで、ディスカッションを中心としたグループワークを行ったのです。 オペレーションの方向付けとしては、唯一、お客さまの存在抜きにはこのビジネスはスタートしない、それほどお客さまは大切なんだと強調しました。
そして、お客さまに直接結びつく商品のクオリティ(Q)、心温まるサービス(S)、清潔で衛生的な環境(C)などQSCのスタンダードを高めること。 常に、優先的に心、気持ち、身体、目がお客さまにいくようにすることを指導しただけでした。

たったこれだけの内容だったのですが、教育プログラム終了後の受講者からの反響はとても大きなものでした。 「今まで教育らしい教育を受けていなかったのかと思うと、大変ショックを受けた」「これまでの自分を振り返るとお客さまに申し訳なく、恥ずかしい」「一体、今まで私は何をしていたんだろうか」、こういった声が相次いで私のもとに寄せられました。
正直いって、従業員の意識は相当低いものでした。 ただ救いとなったのは、こうした人間としての素直さがあったことです。
皆、できることから少しずつ行動に移そうと努力し、その後は職場環境も見違えるようなものになったのです。 笑顔なんて皆無だったサービスに、少しずつではありますが笑顔が見られるようになり、汚かった店はどんどんきれいになっていきました。
これまでは、義務感で仕事をさせられているという状況でしたが、従業員自らすすんで仕事に挑戦しようという環境に変わったのです。 それは、売上げに対する原材料費や人件費の見直しにまで及び、社員主体の従業員組織からパート・アルバイトの組織に改革するまでに至りました。
これにより、一挙に赤字を圧縮し、その翌年には実に何十年ぶりかで経常利益を計上し、確実に利益を上げる集団へと移行したのです。 社内の人事政策でもややもすると「どうしようもない従業員は食堂部へ」という環境だったのが一転して、「将来リーダーシップをとる、やる気のある社員はまず食堂部で勉強させろ」とまで評価が変わったのです。
なぜ、あのように死んだ職場がこれほどまでに生き返ったのか。 それは、あの教育研修があったからにほかなりません。
時間にすればたった3泊4日にすぎませんが、その教育がなかったらとてもこのような環境には生まれ変われなかったでしょう。 企業、店舗サイドとしては、即戦力として使いたいという観点から、まずコーヒーの注ぎ方やお皿の持ち方、メニューの渡し方といった技術を向上させるための訓練をしたいという心情もよくわかります。

しかし、人を中心としたサービス産業では、まずその前に精神的な方向付け、教育をすることが必要なのです。 一見、回り道のように見えますが、これが成功への一番の早道なのです。
実は、このプログラムには、セクショナリズムをなくそうという意図も込められており、人事からキッチン、フロントまですべての部署の人たちが一緒に受講しました。 これは、いろいろなホテルから集まり、それぞれ違った哲学、思想を持っているホテルマンたちに、もう一度基本的なベースに立ってもらい、ホテル西洋銀座の土台、おおもとをつくり上げようとしたのです。
ホテルSが開業する際にも、私は同ホテルのベースともなった「マインド研修」というのを実施したことがあります。 この研修でも、知識や技術については一切行わず、もう一度ホテルマンとしての心の在り方や姿勢、コミュニケーションやチームワークの重要性について、皆で考えました。
また、外食産業のRが、新宿のWホテルにカフェ・Rというコーヒーショップをオープンするときにも、お手伝いをさせていただいたのですが、一カ月のトレーニング・プログラムのうち、なんと20日間をマインドを中心としたプログラムに集中しました。 技術を中心としたプログラムというのは、実質、10日間ぐらいしか行わなかったのです。
このときには、集まったパート30〜40人を幾つかのグループに分けて、「あなたたちは思いやりのグループ」「あなたたちは心遣いのグループ」「あなたたちは親切心のグループ」というふうにして、「では、人に対しての思いやり、心遣い、親切心は具体的にどういうことなのか、これから30分間ディスカッションして、お互いに発表し合いましょう」等の方向付けをしました。 その結果、オープン時には精神的な環境がすっかりでき上がっていましたので、「この人は大丈夫かな」と最初心配していた人でも、ものの1〜2日でお皿の持ち方を覚えてしまったり、自分たちから積極的にメニューブックを持ち帰り、80アイテムもある商品内容をはじめ、略語、使用什器・備品に至るまで、通学や通勤の途中で覚えてしまうほどの効果がありました。
いろいろな意味でサービス産業のお手本となり、サービス産業の地位向上に貢献したTには、ディズニーユニバーシティという研修制度があります。 これは知識や技術の習得のためではなく、あくまでも教育を行うものです。
ここで、社員からパート・アルバイト(Tでは準社員と呼ばれ)に至るまで、すべてのキャストが入社時の研修で必ず受講するプログラムの中にビデオがあります。 ある日、私のところに創業者のE氏から一本の電話がありました。

「私は、今、とても寂しい気持ちでいっぱいです。 久しぶりにRを視察したら、店長たちが疲れて、険しい顔をしている。
その上に立つ部長も役員も食べ物を扱う職業にありながら、きちんとした食事の仕方もできない。 なんとか、ホスピタリティの研修をしてもらえないだろうか」という内容でした。
そこで私どもで、役員、部長を合わせて120〜220名を対象に、ホスピタリティ研修を行いました。 これがきっかけとなって「Rは、ホスピタリティ企業をめざします」というホスピタリティ宣言をし、一連のホスピタリティ運動が社内に広まった。
Rは、外食産業の中でも最も熱心に企業としてホスピタリティ環境づくりに取り組んでいますが、その背景には次のようなことがあります。 同社は創業以来毎年業績アップを重ね、店舗展開も急激に進みました。
店舗数を増やすには、店舗でオペレーションを行うことができる人材を訓練しなければなりません。 ところが、そのうちに社内や店内に「温かさ」が失われてしまったのです。
そこで、O社長が中心になり、「教育熱心なKFC」をテーマに、教育プロジェクトチームを組織し、訓練から教育へと力点を移してきています。 日本Kという企業は、全社一丸となったとき、大変なパワーを発揮します。
そのパワーが教育プロジェクトにも発揮され、数年後の日本Kがどう変貌するのか、大いに楽しみなところです。 最後になりますが、私どもでは毎年春と秋、長野県の軽井沢で、ホテル、外食産業に携わる中堅幹部社員を対象にしたプロフェッショナル・デベロップメントのプログラムであるFMIという研修を行っています。
さまざまな企業の方が一堂に会し、3泊4日の間、寝食を共にして、サービス産業に携わる人間としての精神的な面と、私たちサービス産業のビジネスを体系的に理論面から勉強するカリキュラムです。 毎回、3日目の夜に研修の集大成として、「私たちが考える理想のマネジャー、料理長像」などを発表するグループワークを実施します。

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